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ガイド

Dolby Atmos(ドルビーアトモス)の音楽とは

Atmosの音楽はオブジェクトベースです。それぞれの音が位置を持ち、再生機器が、手元にあるスピーカーに合わせてその位置をレンダリングします。

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チャンネルとオブジェクト

ステレオミックスはチャンネルベースで、従来のサラウンドも同じです。5.1や7.1は、同じ考え方をより多くのスピーカーで実現したものです。それぞれの音をどのスピーカーにどれだけ送るかを決め、その判断がファイルに焼き込まれます。スピーカーが決まった位置にあることが前提で、聴き手の配置が違っても、ミックスはそれを知らず、合わせることもできません。

Dolby Atmosはオブジェクトベースです。音をチャンネルに割り当てるのではなく、高さを含む3次元空間の中の位置を与えます。ファイルには、オーディオと位置が別々に保存されます。そして再生機器が、実際に手元にあるものに合わせてその位置をレンダリングします。60台のスピーカーがある映画館でも、サウンドバーでも、イヤホンでも。

考え方はこれだけで、ほかのすべてはここから導かれます。Atmosのミックスは、特定のスピーカー配置のためのミックスではありません。何がどこにあるかの記述と、レンダラーが従う指示を組み合わせたものです。

実際には、Atmosの音楽ミックスはハイブリッドです。動かす必要のないものには7.1.2のチャンネルベースの「ベッド」を使い、動かすものには最大118個のオブジェクトを使います。

ほぼ間違いなく、こうして聴いている

マーケティングの中で見落とされがちなことがあります。Atmosの音楽が聴かれる場面の圧倒的多数は、ヘッドホンでのバイノーラルレンダリングによるものです。

バイノーラルレンダリングは、音が本当にその位置にあったら両耳に何が聞こえるかを、頭部伝達関数を使ってシミュレーションします。頭部伝達関数とは、頭や胴体、耳の形が、さまざまな方向から届く音をどう変化させるかを表すモデルです。脳はその変化を方向として読み取り、音は両耳の間ではなく、頭の外から聞こえてくるように感じられます。

これはきちんと機能し、ごく普通のヘッドホンでも機能します。特別なハードウェアは必要ありません。「空間オーディオ対応」とうたうヘッドホンは、このフォーマットには必要のないものを売っています。ヘッドトラッキング(頭の向きを変えても音像がその場にとどまる機能)は本物のハードウェア機能ですが、必須ではなく、体験を高めるためのものです。

限界は、使われる伝達関数が汎用のものであり、耳の形は人それぞれだという点です。鮮明で説得力のある、頭の外に定位する音像が得られる人もいます。違いがほとんど聞こえない人もいます。どちらも聴き方が間違っているわけではありません。そしてこのばらつきこそ、空間オーディオの音楽についての意見がここまで大きく分かれる大きな理由です。

制作に必要なこと

個々の素材、つまりマルチトラックかステム一式が必要です。ステレオのマスターから本物のAtmosミックスを作ることはできません。配置すべき個別の音源がないからです。それができるとうたうものは、音を広げるエフェクトをかけているだけで、それは別物であり、ずっと小さなことです。マルチトラックが本当に失われている場合は、ステム分離で配置する音源を作れます。ただし結果は、分離で残ったものをそのまま引き継ぎます。これは実際のコストであり、隠すのではなく、はっきり言っておくべきことです。

大まかな流れは次のとおりです。

  • 各素材を、ベッドのチャンネルかオブジェクトに割り当てます。作品の軸となるもの(キック、ベース、メインボーカル)は、たいていベッドに置いて動かしません。
  • オブジェクトを配置し、動きが曲のためになる箇所では位置をオートメーションで動かします。ここでの失敗はわかりやすく、よくあるものです。フォーマットが許すからというだけで、音が聴き手の周りをぐるぐる回ることです。
  • バイノーラルレンダリングを常にモニタリングします。リスナーが聴くのはそれだからです。スピーカーアレイだけで確認したミックスは、ほとんど誰も持っていない部屋のために最適化されたミックスです。
  • ステレオへのダウンミックスを確認します。配信サービスはそこからステレオ版を作り、再生の大半はいまもステレオです。ステレオにしたときに大きく崩れる空間オーディオのミックスは、今いる聴き手を、欲しい聴き手と引き換えにしてしまっています。まとめたときに何が消えるかを確かめるいちばん手早い方法は、モノラル互換性のチェックです。

納品物はファイルフォーマット

Atmosの音楽の納品物はADM BWFファイルです。すべてのオーディオに加えて、各オブジェクトとその時間的な動きを記述したメタデータを収めたBroadcast Waveファイルです。サイズが大きく、仕様が厳密に定められていて、配信サービスは受け取る際にそれを検証します。

ここははっきりさせておく価値があります。「Atmos対応」という言葉は、まったく異なる2つのことを意味しうるからです。ツールが、空間的に聞こえるヘッドホン向けのバイノーラルレンダリングを作るという意味かもしれません。それは便利ですが、Atmosの納品物ではありません。あるいは、ディストリビューターが受け付ける有効なADM BWFを作るという意味かもしれません。後者は、検証ツール群に裏打ちされた、プロとしての責任を伴うものです。

Atmosでリリースするつもりなら、それを前提にスケジュールを組む前に、どちらが手に入るのかを確認してください。

Atmosのラウドネスは違う。そしてそれは重要

AppleのAtmos音楽向け納品仕様では、統合ラウドネス(Integrated)は−18 LKFSを超えてはならないとされ、トゥルーピークも−1 dBTPを超えてはならないとされています。どちらもITU-R BS.1770-4に従って測定します(Apple、Video and Audio Asset Guide、immersive audio source profile)。これらは目標値ではなく上限です。目標値は狙うべき値を示しますが、上限は越えてはいけない場所を示します。どちらも、多くの人がステレオのストリーミング向けに狙う−14 LUFSより小さい値で、別の納品物に属するものです。ステレオの数値をこちらに持ち込まず、これらの数値をステレオに持ち帰らないでください。測定そのものについてはLUFSとは:実際に何を測っているのかで、Atmosがいちばん多く聴かれている配信サービスでステレオ版の音量がどう揃えられるかについてはApple Music向けのLUFSで解説しています。

その結果、両方を提供している配信サービスでは、Atmos版がステレオ版より明らかに小さく再生されることがあります。そして2つを比べる聴き手は、どちらが優れているかに関係なく、たいてい大きいほうを好みます。音量を揃えない比較につきものの罠が、新しい場所に現れたわけです。

リミッターについても考える必要があります。Atmosのレンダラーは独自のリミッターをかけるので、すでに潰れた状態で届いたミックスは2回処理されることになります。ヘッドルームを残し、あとはフォーマットに任せてください。マスタリング用に書き出すミックスのバスにリミッターをかけるべきでないのと、同じ理由です。

やる価値はあるのか?

正直なところ、場合によります。賛成と反対、どちらの言い分にも根拠があります。

賛成:配信サービスは空間オーディオのリリースを後押ししていて、音そのものとは関係なく、見つけてもらいやすくなるという利点があります。本当に恩恵を受ける素材もあります。密度の高いアレンジは分離が良くなり、アンビエントやオーケストラの音楽は空間が広がり、多くのレイヤーを重ねた作品は、突然レイヤーとして聞こえるようになります。それに、創作上の制約として面白いものでもあります。

反対:これは変換ではなく、もう一つの完全なミックスです。聴こえ方は聴き手の耳によって変わるので、何が聞こえているかに確信が持てません。ラウドネスの差は、何気ない比較では不利に働きます。そして優れたステレオミックスは、どんなシステムでも、平凡な空間オーディオのミックスに必ず勝ちます。

いちばんはっきりした助言はこうです。ステレオミックスが完成していて、しかも優れたものになっていないなら、まずそちらに取り組んでください。再生の圧倒的多数はステレオ版であり、手間とお金をかける価値があるのはそちらです。うまくいっていない作品を空間オーディオにしても、うまくいっていない作品の空間オーディオ版ができるだけです。

空間オーディオ、Atmos、その他の用語

これらの用語は同じ意味のように使われがちですが、同じものではありません。空間オーディオは一般的なカテゴリーで、音を3次元に配置するあらゆる技術を指します。Dolby Atmosは、Dolbyが所有する特定のオブジェクトベースのフォーマットで、独自の仕様、ツール、検証の仕組みを持っています。バイノーラルはヘッドホン向けのレンダリング技術で、Atmosにも、Atmos以外の多くのものにも使われています。アンビソニックスはまったく別の空間表現で、VRや放送でよく使われます。

製品は、Atmosでなくても空間オーディオでありえますし、そのどちらでなくてもバイノーラルでありえます。あるツールが「空間オーディオ」に対応しているとうたうとき、確かめるべきは、それがこのうちどれを指しているのか、そして最後にどんなファイルを渡してくれるのかです。

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